第3.2節 ゼミ運営インフラとしてのScrapbox
Scrapboxをインフラとして採用して以降、学生たちの論述力は目に見えて向上した。以下、ゼミ運営の基盤として利用するScrapboxについて論ずる。
Scrapboxをグループで利用するとメンバー全員でノートを共有できる。ゼミでは論述、資料、プレゼンスライドなどすべてのノートを共有するとともに、相互添削環境として絶大な効果を発揮し、ゼミ運営のインフラとなった。
2017年4月、Scrapboxをゼミで使うため、上級生(2、3、4年生)対象に開講している2つのゼミ用にそれぞれScrapboxプロジェクトを作成した。「shioゼミ」プロジェクトと「ドラゼミ」プロジェクトである。「shioゼミ」はゼミ学生全員が一人一つ判例を研究をして年度末に「shioゼミ判例十選」を作成するゼミ。「ドラゼミ」はdrafting seminarの略。起案ゼミである。司法試験の過去問を起案して、論述力を磨く。その二つに加え、年度後期に入った9月には1年生対象に開講する「1年ゼミ」と「LE1」〈注22〉用にもそれぞれプロジェクトを作成したので、ゼミ用プロジェクトが計4つになった。
ゼミは基本的に学生たちの自主運営だ。学生たちが自ら内容を計画し、準備し、ゼミの当日は司会を決め、協力し、運営する。合宿等のイベントも同様に学生たちの運営に任せる。したがって、学生同士で共有する情報は多岐にわたる。協議事項も多い。
従来はChatWorkやLINEといったメッセージングシステムを使っていたが、レスポンスの遅い学生などがいて円滑に進まない状況も生じた。Scrapboxでは学生たちが主体的にアクセスして情報共有するから、コミュニケーションが加速する。例えばゼミ合宿が企画されると、関係する情報がどんどんScrapboxに貼り付けられ、相互にリンクされる。見学先の工場の住所、地図、担当者の連絡先、webサイト、写真、その企業の社長のスピーチ、専門用語の解説、宿泊先候補となるホテル、割引情報、観光地の候補など。各メンバーが少しずつ貢献することで、全体として有機的なデータベースが構築され、合宿というイベントが実り多いものとなる。
4月から半期にわたって、ゼミ運営にScrapboxを使った結果、プロジェクトを4つのゼミで分けずに一つに統一した方がより相乗効果が高そうだと気づいた。そこで学生たちと相談の結果、4つのプロジェクトを統合した。Scrapboxでは各プロジェクトのデータをJSON〈注23〉ファイルで書き出せるため、「ドラゼミ」、「1年ゼミ」、および「LE1」のプロジェクトデータを書き出した。書き出す前に、各々すべてのページにハッシュタグを追加しておいた。「ドラゼミ」プロジェクトの各ページには「#ドラゼミ」を、「1年ゼミ」には「#1年ゼミ」を、「LE1」には「#LE1」を、そして「shioゼミ」には「#shioゼミ」を。
3つのプロジェクトから書き出したJSONファイルを「shioゼミ」プロジェクトに読み込み、4つのハッシュタグをタイトルとするページを作成。すると、例えば「shioゼミ」ページを開けばその下に「#shioゼミ」タグがついたページのカードがずらりと並ぶ。当初はその配列順序を変更することができなかったが、2017年11月6日、トップページと同様、ソート可能になった。本稿執筆時点で「Date modified」、「Date last visited」、および「Most related」の3種類のソートが可能だ。
そうなれば、もう4つのゼミでプロジェクトを4つに分ける必要がない。むしろ、一部のメンバーが重複しているそれらのゼミを統一して1つのプロジェクトとして運営したほうが、利便性が高い。特にゼミ合宿やOB会といったイベントに関しては、すべてのゼミ合同で実施するから、統一すればアナウンスや協議が1カ所に集約される。
次年度(2018年度)もその「shioゼミ」プロジェクトを継続利用する予定である。その際、2017年度に作成した「shioゼミ」をタイトルとする既存のページのタイトルを「shioゼミ」から「2017shioゼミ」に変更すればよい。すると、各ページに付された「#shioゼミ」タグがすべて自動的に「#2017shioゼミ」に変更される。他の3つのページのタイトルも同様に2017を付加することよってタグを変更する。そのあと新たに「#shioゼミ」、「#ドラゼミ」などのハッシュタグとそれをタイトルとするページを作成すれば、2018年度用のページとして継続利用できるのだ。ゼミ運営のインフラとして、今やScrapboxが不可欠である。
なお、「slack」を使うと、Scrapboxの編集をリアルタイム通知できる。連絡に使っているページに関してはリアルタイム通知は便利だし、必要を感じる。しかし日夜各メンバーが論文を編集しているゼミのプロジェクトにおいて、リアルタイム通知のほとんどはノイズである。編集の様子は「Stream」画面を見ればすべて明らかなので通知は不要だ。slackと連携するとすべての編集が通知されるため、真に通知を必要とする連絡は埋れてしまう。 そこで連絡用途には別のシステムを利用している。2017年度はChatWorkを使ったが、2018年度はMicrosoftがOffice 365で提供する業務用チャット「Teams」を利用する。slack類似の「チャンネル」によってトピックを分けることができるなど利便性が高く、成蹊大学が全学生教職員分のアカウントを包括契約しているため、学生や教員の個人的負担なく使えるからだ。MacおよびWindows PCでGoogle Chromeなどのブラウザと専用アプリで利用可能で、かつiPhone、iPad、Android端末用のアプリも提供され、いずれも安定して稼働しており、安心して業務に使える環境が整っているからである。 /icons/-.icon
22) 「Legal Expert 1」の略。成績優秀者のみが履修可能な上級クラス。司法試験、弁理士試験、司法書士試験などの資格試験を目指す学生が多いが、論述の訓練が目的なので、それ以外の学生も履修している。
23) JavaScript Object Notation:データ記述言語の一種。JavaScriptの構文をベースとして各種のプログラミング言語間でデータの受け渡しに用いられる汎用性を特徴とする。